大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)3876号 判決

主文

一  原告と被告ら間の大阪地方裁判所昭和六三年(手ワ)第一七一号小切手金請求事件について同裁判所が昭和六三年四月二六日に言い渡した小切手判決を認可する。

二  異議申立後の訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し、二四〇万円及びこれに対する昭和六二年九月二五日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次のような記載がある持参人払式小切手一通(以下「本件小切手」という。)を所持している。

(一) 金額 二四〇万円

(二) 支払人 株式会社大和銀行天六支店

(三) 支払地 大阪市

(四) 振出地 大阪市

(五) 振出日 昭和六二年九月二五日

(六) 振出人 被告有限会社ヤマミ

(七) 裏書関係 被告山見鈴枝の裏書

2  被告有限会社ヤマミ(以下「被告会社」という。)は本件小切手を振り出した。

3  被告山見鈴枝(以下「被告山見」という。)は、本件小切手に裏書した。

4  原告は、本件小切手を昭和六二年九月二五日に支払人に対し支払のため呈示したが、支払を拒絶されたので、支払人をして右小切手面に呈示の日を記載し、かつ、日付を付した支払拒絶宣言をさせた。

5  そこで、原告は、被告らに対し、各自本件小切手金二四〇万円及びこれに対する呈示の日である昭和六二年九月二五日から支払ずみまで小切手法所定年六分の割合による利息の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、4の各事実は不知。

2  請求原因2、3の各事実を否認する。

被告会社の従業員であった中岡良栄(以下「中岡」という。)が昭和五七年五月ころ本件小切手用紙を盗取したうえ被告会社の印章を冒用して被告会社の振出及び被告山見の裏書を偽造したものである。

三  抗弁

1  仮に、被告会社が本件小切手を振り出し、被告山見が同小切手に裏書したとしても、被告らが右小切手行為をしたのは昭和五七年五月二〇日以前であって、当時その振出日は白地であった。原告が本件小切手の白地部分である振出日を補充したのは昭和六二年九月二五日であるから、右白地部分の補充は白地補充権の消滅時効完成後になされたものであるので、被告らは、その消滅時効を援用する。

2  原告は、吉山某(以下「吉山」という。)から賭博金の支払のために本件小切手の交付を受けたものであって、原告による右小切手の取得は民法九〇条に違反し無効である。

したがって、原告は、本件小切手上の権利者でないから、被告らは、原告に対し右小切手金の支払義務がない。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1を争う。

2  抗弁2の事実を否認する。

原告は、昭和六二年九月ころ、吉山に対する貸金債権三〇〇万円の支払のために同人から本件小切手を取得したものである。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一  金融機関作成部分の成立及び振出人欄における被告会社の記名印影とその名下の印影が被告会社の記名印と印章により顕出されたことにつき争いのない〈証拠〉(本件小切手)、〈証拠〉を総合すると、請求原因事実をすべて認めることができ、右認定に反する被告山見鈴枝本人尋問の結果部分は採用することができず、他に同認定を覆すに足る証拠はない。

二  そこで、被告の抗弁につき順次判断する。

1  被告は、本件小切手の振出日白地の補充権が時効により消滅していた旨主張するので、検討する。

〈証拠〉を総合すると、被告会社が本件小切手を振り出し、被告山見が同小切手に裏書したのは昭和五七年五月ころであって、当時その振出日が白地であったこと、原告が昭和六二年九月ころ吉山から本件小切手を取得して同月二五日に白地であったその振出日欄を同日と補充したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によると、原告は、現実に振出日を白地として本件小切手が振り出された日から五年の白地補充権の時効期間経過後に吉山から右小切手を取得して同小切手の振出日を補充したものというべきである。

ところで、小切手の白地補充権が時効にかかった後に白地の補充が行われた場合に、小切手の白地補充権の時効をいわゆる物的抗弁と解することは白地補充後の小切手取引の安全を不当に害するおそれが多いから、小切手の白地補充権の時効が完成した後にその白地の補充がなされたときは、小切手法一三条の類推適用により、悪意又は重大な過失によって右小切手を取得した所持人は小切手の白地補充権の時効完成後における白地補充のいわゆる人的抗弁をもって対抗されることになると解するのが相当である。

そうすると、被告らは、原告が本件小切手の振出日の白地補充権の時効完成後に右小切手を悪意又は重大な過失によって取得したものであることにつき何らの主張立証もしないから、原告に対し本件小切手の振出日の白地補充権の時効をもって対抗することができないものというべきであって、被告らの右白地補充権の時効消滅の抗弁は採用することができない。

2  被告らは、原告が賭博金の支払のため本件小切手を取得したものであって、その取得は民法九〇条に違反し無効である旨主張するけれども、本件全証拠によるも右主張事実を認めることができないから、被告らの右抗弁も採用することができない。

三  以上のとおりであって、被告らは、原告に対し、各自本件小切手金二四〇万円及びこれに対する呈示の日である昭和六二年九月二五日から支払ずみまで小切手法所定年六分の割合による利息の支払義務を免れない。

四  よって、原告の被告らに対する本訴各請求を認容して被告らに訴訟費用の負担を命じたうえ仮執行の宣言を付した主文一項掲記の小切手判決を認可することとし、異議申立後の訴訟費用の負担につき民訴法四六三条、四五八条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻忠雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例